<いちご大福…(五嶺目線)



昼の光が、柔らかく障子に映っている。
薄暗い部屋に敷かれた布団…
その中からそちらを見ると、
まるで障子に明かりが灯っているようだ…


昨日は、確かに朝から気分が優れなかった。
そして午後からは本格的に
頭がズキズキとしてきて…
夕方、めまいを起こしたように思う。
そして、気づいたら、この布団に寝かせられていた。

頭に乗せられた氷まくらが
ひどく気持ちよくて
熱があるのだと分かった。


今朝の体調はと言えば
まだ熱は下がりきっていないが、
だいぶ気分は良くなった。
…と言うのに、
エビスが心配そうに枕元に座っている…

じぃっと、側に居られるのも、落ち着かない。
用があれば呼ぶ。と言って隣の部屋へ追い払う。

なんなんだ、あの真っ青な面は…
お前の体調の方が悪いんじゃないのかと思う。
…昨日からあんな調子なのだろうか…。

馬鹿じゃないのか…
お前が青くなったところで、何にもならない。
むしろそんな顔して、押し黙っていられる方が
鬱陶しいし、イライラする…


昼に食事を運んできたエビスに
どうせ今日は、お前に仕事なんか無いんだから
どこかへ遊びにでも行って来いと言ったが、
ますます顔を青くして、首を横に振る…
いよいよ、腹が立ってきた…


「あの、何か、入り用の物があればお呼びください…」
そういって、退室していくエビス。

…そんなに、アタシのご機嫌をとりたいのかねぃ…??


「…じゃあ、菓子でも持って来い。…なんと言ったか、あの…
中に苺の入った大福がいいねぃ…」


振り返ったエビスが目を丸くする…
それはそうだろう。
前に一度、エビスが買ってきた事があったが、
その組み合わせが、どうにも気に入らなくて、一口も食べなかった。

「あれが、食べたくなったんだよ。早く持って来い…」

買い置きなんか、あるわけが無い。
「あれ、は…」エビスが、のろのろ口を開くのに苛立って
「…無いなら、買って来い。…早く!」と睨みつける。
「は、はい…!い、行って参ります…!」と、エビスはどたどた出て行った。

ふぅ…、これで静かに休める…。

本当に…
あいつはどうして、ああなんだろうねぃ…
アタシの顔色伺って…
アタシが睨むとオドオドして…

(オドオドする方が、アタシをイラつかせるのが
分からないのだろうか…)


でも…、
子供だからと思ってアタシを出し抜こうとする大人共や
アタシを丸め込もうとして、ご機嫌をとる奴らに比べたら
ずっとマシだ…

あいつはただ…
ここに居たいんだろう…
ここにいれば、衣食住に不自由はしないし…
今まで居たとこより、何倍も居心地はいいはずだ…

でも、ここの仕組みは厳しい…
あの位の力量じゃ、
大きくしくじれば即、追い出される。
それで、あんなにオドオドしてるんだろう
でも、仕方ない…
ここはそういう場所だ…

…だから、大きな仕事は任せない…

別に、居て欲しいわけじゃないんだよ。
ただ…、アタシを見下しかねない大人たちより、
…子供みたいに、ただアタシを敬うような、
そんな側近がいたらよいな…と、思っただけ…


でも、それもそろそろ限界かもしれない…
努力しないで、居られるとこじゃないんだよ
努力しな…、努力して努力して…


「ずっと…、アタシの側に居れば良い…んだよ…」

静寂の中でぼんやりと独りごちた。
ゆっくりと、意識が眠りに沈んでゆく…







…目が覚めると、部屋は薄暗かった。

早朝なのか、夕暮れなのか…
まるで時間の流れから切り離された様な
見慣れない静寂…今は何時なのか…。
一瞬、前後不覚になって
(なぜ…?何をしている途中だったろうか…)
そんな風に思った。


「……エビス…?…」
無意識に、エビスが近くに居るはずだと思い、声をかけた…
が、襖を開けたのは、年配の女中だった。
開けられた隙間から、現実感が流れ込んでくる…

「お呼びですか…、若さま。気分はどうですか?」
(ああ、熱があって、寝てたんだったな)
そう思って、体の感覚を探ってみたが、
もう頭も痛くないし、ダルさも完全に無くなっているようだ。
「平気だ。熱も下がったようだし…」
「では、熱を測ってみましょうか…」

熱は下がっていた。
時は夕刻…

「エビスは…?」
そうだ、確か…大福を買いに行かせたのでは無かったか…

「昼にお出かけになって…その後は、見かけていませんけど…」
「そうか…」
戻ったら、ここに来るはずだから…まだ戻っていないのか。
…あの大福は、そんなに遠くまで行かないと買えない物なのだろうか…?


服を着替えた。女中が手伝ったが、
この女中の手は、
暖か過ぎるから、…嫌いなのだ。
やわらかくって、暖かくって…
アタシには、必要ない。
このやわらかい手は、必要ない…

エビスが居れば、
ひとりで着替えられるのに

…あの馬鹿、必要な時にいない…
どこほっつき歩いてるんだ!


辺りが薄暗くなってきたのに
エビスはまだ戻ってこない…
イライラしてきた…どこまで行ってるんだぃ…
なんで、こんなに時間がかかるんだぃ…
側近のくせに…アタシの側に居ないなんて…!!


戻ってきたら、すぐに睨みつけて、
嫌味と小言を言ってやる…そう思って、
女中が止めるのを振りほどき
表に出た。

門を出たところで、
ちょうどよくエビスが帰ってきた。
驚いて駆け寄ってくる…

「起きて大丈夫なんですか…!?熱は…っ?」

…こいつは…、

いつだって、本当に、子供みたいに、
ただ…アタシの心配を、するんだ…


「もう、下がったよ…。…一体、どこまで行ってたんだぃ…」


本当に、どこまで行ってたんだか、腕には
大福屋の名前の入った袋を抱えている。

「あの…、○◇デパート…まで、です。」

「…ふん、寄り道ばっかりしてたんだろぃ…」


こいつは…
こいつは…もっと、大人かと思っていたけど

本当に、子供みたいだ…。






別に、
居て欲しいわけじゃないんだよ。

…ただ、
そんな側近がいたらよいな…と、
思っただけ…




−−結−−





2006.10.16
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