<いちご大福…(エビス目線)


「…じゃあ、菓子でも持って来い。…なんと言ったか、あの…
中に苺の入った大福がいいねぃ…」


吹く風が少し肌寒い、秋の初め…
珍しく体調を崩して、床に就いていた五嶺様が
いちご大福を欲しがった。


五嶺様に拾われて半年が過ぎていた…
俺は側近として、いつも五嶺様の側に居て、
五嶺様の手伝いをさせてもらっている…
(他の社員たちが、)
(側近とは名ばかりで、あんなのは只の雑用係だ…と)
(囁いているのは、知っている)
しかし、近くで見れば見るほど
五嶺さまは、本当にすごい…
ことに、仕事に関する指示や交渉事に関しては
大人たちに、引けをとっていない。

でも近頃は、過密なスケジュールが続いていた。
無理をし過ぎでは…と思っていた矢先…
久々にとれた休みの前日に
高熱を出し、倒れてしまったのだ…。
休みになった途端に倒れるなんて
五嶺様らしいけど…洒落にならない…

その夜は、女中と交代で五嶺さまに付き添った。

新しい氷まくらを小さなおでこに、そっと乗せる…

「…無理をし過ぎです…五嶺さま…」
独り言のつもりだったのに、答えがあった。

「…甘くみられたら…後が、もっと面倒なんだよ…」

「あ、起こしてしまいましたか…っ、すみません…」

「……。」

相当具合が悪いらしく、もう、返事は返ってこなかった。



そして翌日…、
だいぶ顔色は良くなったが、まだ少し熱のある五嶺様が
いちご大福を食べたいと言い出したのだ…

前に一度、買ってきた時、
「中に苺が入っているんです」
と説明したら、怪訝な顔をしたきり
五嶺様は結局、お食べにならなかったのに。

この前、本当は食べてみたかったんだろうか…、
それとも本当に気が変わっただけかもしれない…
…考えても答えの出ない問答を心の中で繰り返しながら
俺は近所の商店街やコンビニ、和菓子屋など、
およそ大福を扱っていそうな所を順々に巡った。

さすがに和菓子屋に行けば手に入りそうだと
踏んでいたのに、売っていない…。
尋ねてみたら、
いちご大福は春から秋の初めまでしか出していなく
この店では、先月末で終いにしたのだという。

今ちょうど、秋の初めだよな…ギリギリじゃねぇかよ…。

(五嶺様の怒りをかってしまった時、出てくる言葉たち…)

「食う分くらいの働きはしたらどうなんだぃ?」

「おまぃさんの代わりは、いくらでも、いるんだよ?」

それだけなら、まだ良いが…
いつ、飄々とした風で

「恩義を返す気がないのなら、さっさと出て行きな…」と、
言われるかと思うと、生きた心地がしない。

でも最近、それらの言葉はどうやら
事務所に関する仕事で俺がヘマをした時にだけ、
出てくるような気がしていた…
こういった、おやつがどうの…ということでは
(嫌味は言われるけれども)
クビにされそうになったことはない、
(気がするから…)
から…
(…でも…)
でも、五嶺様が、食べたい…って…


俺は、思いつく限りの菓子屋を捜し歩いた…。
確かあっちにも、菓子屋があったはず…
あそこのスーパーにも、店が入っていたはず…
こうなったら、見つけるまでは諦めない…

そう思ったが、時間は刻々と過ぎていき
夕闇がそこまで近づいてきている…
(ここに無かったらもう無理かもしれねぇな…)
そう思いながら足を伸ばした○◇デパート…

!!
…あ、あった…!
(やったッ…スゲェ、この店…!!)

笑みがこぼれる。やっと見つけた…!
もぅ、ここのいちご大福を買い占めたい位だ。
しかし、そんなに買っても意味が無い。
五嶺様が食べる分だけ、あれば良いのだ。
「えっと…何個あれば良いかな…。
五嶺さまはそんなに沢山は食べないから…」

サイフを取り出しながら、ふと思う。
他人の財布を盗って暮らしていた俺が、
誰かの為に、何かを買うなんて…
五嶺様に会う前は無かった事。


デパートの食品売り場はひどく混んでいた。
この人混みの中で、誰かのために
おみやげを買って帰る人はどの位いるんだろうか。

ただ、自分以外の人の事を思って
何かをするという事…
それだけの事…、だけど
それだけで、自分はやっと人並みになれた気がした。

五嶺様からすれば、俺は使用人で…
これらは、仕事の一部なんだろうけど…
俺を、あのむなしさで埋め尽くされた「生」の中から、
ひっぱりだしてくれた五嶺様…
そして今も俺を使ってくれている…
それがとても嬉しい。
この恩義に、報いたい
五嶺さまの望みを叶えるために、俺は在るのだ。
…でも、
夢を叶えるためだとしても、

今回のように、倒れるまで無理をしたりしないでほしい…

願わくば…願わくば、
(俺なんかがおこがましいけれど)
…助けに、なりたいのだ

俺の身なんか、いくらでも使っていいから
少しくらいの、いいや…沢山の
わがままだって、言って良いから…


大福を買った俺は家路を急いだ。
家に近づく頃には、辺りは薄暗くなっていた。
「すっかり遅くなっちまったな…」

…あ。
「ゴッ、ゴリョー様!?」
門から、ケープを羽織った五嶺様が出てきた所だった。
俺は驚いて駆け寄った。
「起きて大丈夫なんですか…!?熱は…っ?」

「もう、下がったよ…。…一体、どこまで行ってたんだぃ…」

「あの…、○◇デパート…まで、です。」

「…ふん、寄り道ばっかりしてたんだろぃ…」
扇子でコツンと、俺の頭を小突いたかと思うと
ケープを翻し、門の中に入って行く。
俺も、後について中に入った。

(…?。今、何しに出て来たんだろう…?)
(……、まさか…俺の帰りが遅いから…じゃないよなぁ?)


無言で歩む渡り廊下…
五嶺様は、スタスタと歩みを進める。
五嶺様は歩みまで、てきぱきしているというか…。
俺なら、そんなスピードで「歩」こうとすると
全身に力が入り、疲れてしまうと思う。
必然的に、俺はトトト…と小走りで従う。
そう、五嶺様は、頑張りすぎなのかもしれない…
いや、頑張りすぎ、だ。
そうせねばならない身だとしても、
もう少しうまくブレーキを使ったほうが良いのだ。


(どうしよう…言ってみようか…)
(怒るかな…怒るかも)
(でも…側近なんだし…)
(そう、)
(側近なんだし…)
(…よし、…言ってみよう。)

「…あのっ、五嶺さま…!…エビスに、
五嶺さまのご予定を組ませてください!!」
と、一気に言った。

「…え?」

唐突な話に目をパチクリとさせて、こちらを見る五嶺様。

「その…、俺が…、
俺…、スケジュール調整も…側近の仕事ではないかと…」
(思うのですが…、)は、もうゴニョゴニョと口ごもってしまった。

五嶺様は少し考え込んでいるようだったが、

「…まぁ、確かに…側近の仕事だねぃ…」

悠然と、笑って言葉を続けた
「……出来るのかぃ?」
「おまえが言い出した事だからねぃ。」
「泣きごと言ったりするんじゃないよ?」
思いがけなく、ぽん、ぽん、ぽん…と繋がる言葉たち…

やった…!
「…はい!!ありがとうございます…!!」

「でも、おまぃさん、大福ひとつ買うのに、何時間かかるんだい?」
「自分の行動もまともに管理できてないんじゃないかぃ…?」
「やっぱり、お前には、無理じゃないのかねぃ」
…思いがけなく、ぽん、ぽん、ぽん…と…

「いえ!!五嶺さま!こ、これには訳がありまして…!!」
必死に言い訳をすると
五嶺様がコロコロと笑う…。

(あ…、笑った顔、久しぶりに見る…)

俺は五嶺様がこうして笑う様子が
とても好きだ。
少し悪戯っぽい、でも
年相応の可愛らしい笑顔…
見ていると俺まで、とても嬉しくなる…。




願わくば…願わくば、
五嶺様のこのような笑顔が
少しでも長く続きますように…




−−結−−





2006.10.16
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